デンマーク
1. 公的機関
- デンマーク統計局(Danmarks Statistik、DST)— 国家統計機関:https://www.dst.dk
- 財務省(Finansministeriet)— 出身別の財政負担純額に関する公式算定を行う
- 移民・統合省(Udlændinge- og Integrationsministeriet)
- ロックウール財団(Rockwool Fonden)— 労働市場統合に関する独立系研究機関
2. 主要データセット
- 「移民の公的財政への純負担(indvandreres nettobidrag til de offentlige finanser)」公式算定(財務省)。出身(欧米系/非欧米系/移民の子孫)および居住期間別に分解され、2007年頃からほぼ毎年公表されている
- Statistikbanken(DST):雇用、出身別犯罪(kriminalitet efter herkomst)、出身別教育の統計データベース
- 統合に関する年次報告書「デンマークの移民(Indvandrere i Danmark)」
3. 人口動態
3.1 現在の人口構成
- 2025年1月1日時点で、デンマークの人口は5,992,734人。デンマーク系が83.7%、移民が12.6%、移民の子孫が3.7%を占める。 経年比較:移民・子孫の人口比は構造的に増加傾向にある(DSTの将来予測では最終的に人口の23%に達するとされる)。
- 2025年には約45,000人が就労または留学を目的として移住した(デンマーク・北欧諸国以外からの移民の57%がこの動機を申告)。すなわち近年の流入は就労・留学目的が主であり、就労/家族/庇護の区分では就労・留学が中心となっている。
- 出典:デンマーク統計局「Indvandrere i Danmark 2025」— https://www.dst.dk/da/Statistik/udgivelser/VisPub?cid=54707 および https://www.dst.dk/da/Statistik/emner/borgere/befolkning/indvandrere-og-efterkommere
3.2 移民の出身地域別構成
- 移民のうち、非欧米諸国出身者が59.0%、欧米諸国出身者が41.0%。移民の子孫のうち、非欧米系が81.3%、欧米系が18.7%——世代を経るごとに非欧米系の比率が高まっている。
3.3 移民の波(1945年〜現在)
- デンマークは1982年を境に、構造的に「移出国」から「移入国」へ転換した(それ以前は第一次世界大戦期を除き移入が移出を上回る期間はなかった)。 出典:Danmarkshistorien(Lex.dk)「Indvandring til Danmark, efter 1945」— https://danmarkshistorien.lex.dk/Indvandring_til_Danmark,_efter_1945
- 1960年代〜1973年:トルコ・パキスタン・旧ユーゴスラビア出身の「フレムメドアルバイダー(外国人労働者)」が高度経済成長期に受け入れられた。1973年の石油危機を受け、外国人への新規労働許可は停止された。
- 1980年代:1983年の自由化された庇護法により庇護希望者が増加。スリランカ出身のタミル系難民(1985〜1989年)の受け入れが特徴的。
- 1990年代:旧ユーゴスラビア(特にボスニア)出身の難民の波。1992〜1995年に約20,000人が庇護を申請。
- 2000年代:EU東方拡大(2004年・2007年)に伴う東欧出身労働者の増加。ソマリア系移民・子孫も増加(約16,700人、調査時点で年次不詳)。
- 2010年代〜現在:シリア内戦(2011年〜)・アフガニスタン情勢を背景とした難民。2022年以降はウクライナ避難民が一時保護ステータスで受け入れられ、DREAM研究所の推計では2022年の受け入れ規模は約30,000人、通常の年間移民流入の40%超に相当。 出典:Danmarkshistorien/Lex.dk(上記リンク);ウィキペディア(デンマーク語版)「Indvandring」— https://da.wikipedia.org/wiki/Indvandring;DREAM「Befolkning — Modeller og metoder」— https://dreamgruppen.dk/modeller-og-metoder/befolkning
期間別の主な特徴
1960s–1973労働移民トルコ・パキスタン・旧ユーゴからの外国人労働者。1973年石油危機で新規受入停止。
1980s〜数千人1983年庇護法自由化。スリランカ・タミル系難民(1985-89年)。
1990s約20,000人旧ユーゴ(ボスニア中心)難民。1992-95年に庇護申請集中。
2000sEU拡大2004・2007年東方拡大で東欧労働者増加。ソマリア系も拡大。
2010s–現在約30,000人シリア・アフガン難民。2022年以降ウクライナ避難民(一時保護)。
- 移民
- 移民の子孫
- 1980年から2026年にかけて、移民数は約5.8倍(134,705人→780,954人)、移民の子孫は約12.6倍(18,253人→230,082人)に増加した。
- 北西欧(主要10カ国)
- 東欧・バルカン(主要10カ国)
- 中東・北アフリカ・南アジア(主要8カ国)
- 注:この地域区分はDSTの公式分類ではなく、各地域の主要国(北西欧10カ国・東欧バルカン10カ国・中東北アフリカ南アジア8カ国)を本観察サイトが独自に合算した参考値である。すべての国を網羅していないため、DSTが公式に用いる「欧米/非欧米」区分の完全な代替ではない。
- 東欧・バルカン圏は1980年から2026年で約13.8倍(13,460人→186,051人)と最も高い相対成長を示し、近年はポーランド・ルーマニア・ウクライナが中心。中東・北アフリカ・南アジア圏も1990〜2010年に急増(49,719人→106,147人)した後、増加が緩やかになっている。
- 限界:1945年〜1979年の期間は、DSTのFOLK2表が1980年以降のデータしか提供していないため、本調査では確認できなかった。
📊1945年〜1979年の移民人口データ、および年代別の正確な移民流入数(Statistikbanken統計表 INDVAN・UDVAN・VAN1AAR)は今後追加予定です。
3.4 年齢構成(人口ピラミッド)
65歳以上
40-64歳
18-39歳
0-17歳
- デンマーク系
- 移民
- 移民の子孫
- 移民は労働年齢層(18-64歳)に集中しており、81.6%がこの年齢層に該当する(デンマーク系:57.2%)。65歳以上の割合は移民で10.9%、デンマーク系で23.6%。
- 移民の子孫は非常に若く、50.7%が18歳未満、65歳以上はわずか0.9%——この区分が数十年前から本格的に存在するようになったことと整合的である。
3.5 将来予測(2070年まで)
- デンマーク系の人口比率
620万人
DSTの2070年人口推計(2025年の599万人から増加)
- DSTはこの推計について「単一の中心シナリオに基づく決定論的予測」であることを明示しており、フランスの「le-français-moyen」のような複数シナリオ(現状維持/統合促進など)比較は採用していない。不確実性の主要因は将来の外国籍移民流入と出生率の動向とされる。 出典:DST「Befolkningsfremskrivning:Præcision og pålidelighed」— https://www.dst.dk/da/Statistik/dokumentation/statistikdokumentation/befolkningsfremskrivning/praecision-og-paalidelighed
- DREAM研究所は補完的に代替シナリオ(ウクライナ避難民の帰还速度や出生率の前提を変えた場合等)を作成しているが、これらは「予測の前提に対する感度を示すための参考」であり、中心シナリオより確率が高い/低いものとして解釈すべきではないとDREAM自身が明記している。
📊DREAM研究所の代替シナリオの具体的な数値(人口規模や出身別人口比率の比較値)は今後追加予定です。公開資料ではシナリオの存在が説明されているのみで、具体的な数値は本調査では確認できていません。
将来人口シナリオの比較(DST公式推計)
現状維持シナリオ(DST公式推計)
77.6%
2070年のデンマーク系人口比率
- 2025年時点:83.7%がデンマーク系
- 移民流入が現状水準で継続した場合の単一中心シナリオ
- 総人口は2025年の599万人から2070年に約620万人へ増加
- 移民・子孫の合計比率は最終的に23%に達する見込み
出典:DREAM研究所・DST公式推計(移民流入が現状水準で継続した場合)
4. 財政— 純負担
−160億DKK/年
移民・移民の子孫全体による公的財政への純負担(2019年データ、2023年9月改訂)
- 参照すべき手法:財務省(Finansministeriet)による算定は、この分野でヨーロッパ最も詳細かつ長期的な手法とされる。国別横断分析でも基準として位置づける。
- 出身および居住期間別の詳細分解が可能
- 最新の公表報告書(2019年データ、2023年9月改訂版):移民および移民の子孫全体による公的財政への純負担=デンマーク財政に対して年間約マイナス160億デンマーククローネ(DKK)。 出身別の詳細:欧米系移民・子孫=純負担はプラス約110億DKK(純貢献);非欧米系移民・子孫=純負担はマイナス約270億DKK、そのうちMENAPT諸国(中東・北アフリカ・パキスタン・トルコ)出身者がマイナス約240億DKK、その他の非欧米諸国出身者がマイナス約30億DKK。 比較の参照点:それ以前(2018年)の長期推計では、生涯一人当たり年間の純負担は非欧米系出身でマイナス31,000DKK、欧米系出身でプラス20,000DKKと推定されていた。 最近の傾向(公式な純負担額としては未算定):MENAPT諸国出身者の就業者数は2019年第4四半期の62,800人から2024年第4四半期には80,800人に増加しており、純負担の改善を示唆するが、2019年以降の新たな公式算定は本稿執筆時点で未公表。 報告書直接リンク(PDF):財務省「Indvandreres nettobidrag til de offentlige finanser i 2019」(2023年9月改訂)— https://fm.dk/media/5cnhiydz/indvandreres-nettobidrag-til-de-offentlige-finanser-i-2019_revideret-september-2023-a.pdf 公表ページ:https://fm.dk/udgivelser/2023/september/oekonomisk-analyse-indvandreres-nettobidrag-til-de-offentlige-finanser-i-2019-revideret-version-september-2023/ 方法論について:現時点で公的に確認できる唯一の手法(財務省による世代会計/財政会計手法)。他の委託主体による比較可能な純負担額を算定した独立の第二の方法論は、これまでのところ確認されていない。
4.1 年金制度・現役世代比率
- これは年金制度に特化した「現役世代対年金受給者」比率そのものではなく、25-64歳人口のうち財政に対して正の純負担(受け取る給付より納める税・社会保険料が多い)となっている人の割合を示す代替指標である。デンマーク系の74%に対し、非欧米系移民は43%。
- 出身別に分解された人口学的依存度(高齢者・子供 対 労働年齢人口の比率)は、デンマーク全体では2023年の73%から2045年に91%へ上昇するとの推計があるが、この全国指標は出身別には分解されておらず、一次資料(DST/財務省)への直接の参照は本調査では確認できなかった。
📊出身別の人口学的依存度(年金受給者・子供対労働年齢人口比)は今後追加予定です。
5. 労働市場
- 非欧米系移民男性
- 非欧米系移民女性
- デンマーク系男性
- デンマーク系女性
- 2024年の雇用率(デンマーク統計局、RAS登録データ):非欧米諸国出身の移民男性=71%(2015年は53%);非欧米諸国出身の移民女性=61%(2015年は45%)。 デンマーク系住民との比較:デンマーク系男性=2024年81%(2015年77%);デンマーク系女性=2024年78%(2015年73%)。 したがって、非欧米系移民とデンマーク系住民との雇用率の差は2015年から2024年にかけて縮小したが、解消はしていない。
- 移民および移民の子孫の総就業者数は2022年の474,400人から2023年には498,000人に増加し、+23,500人(+5.0%)。このうち非欧米諸国出身者が17,700人、欧米諸国出身者が5,800人。 出典:デンマーク統計局 — https://www.dst.dk/da/presse/Pressemeddelelser/2025/2025-12-15-beskaeftigelsen-stiger-fortsat-blandt-indvandrere-fra-ikke-vestlige-lande およびStatistikbanken統計表(Arbejdsmarkedsstatus、RAS): https://www.dst.dk/da/Statistik/emner/arbejde-og-indkomst/befolkningens-arbejdsmarkedsstatus/arbejdsmarkedsstatus-ras
6. 治安・司法
- DSTは出身別の犯罪統計を日常的に公表している。これを行うヨーロッパでも数少ない統計機関の一つである。
- 報告書「Kriminalitet og herkomst 2023」(司法省研究部門、2025年4月)は、DSTの2023年有罪判決データに基づくもので、非欧米諸国出身の移民の子孫(男性)の犯罪指数(年齢補正済み)は、男性人口全体と比較して刑法犯について約2.6倍、暴力犯罪について約2.9倍に達するとしている。 比較の参照点:この指数は出身を問わないデンマーク人男性全体の平均(基準指数=100)と比較され、グループ間の年齢構成の差を補正した上で算出されている。 直接リンク(PDF):https://www.justitsministeriet.dk/wp-content/uploads/2025/05/Kriminalitet-og-herkomst-2023-WT.pdf 基礎となるStatistikbanken統計表(出身別の有罪判決者数): 「Dømte personer」— https://www.dst.dk/da/Statistik/emner/sociale-forhold/kriminalitet/doemte-personer (STRFSOC1、STRFNA14の各統計表。Statistikbanken.dk経由でアクセス可能)
7. 教育
- 2020年(確認できた最新データ)時点で、デンマークの小学校を卒業した25歳の移民のうち、中等教育(ungdomsuddannelse)を修了した割合は58.1%で、この集団については2013年以降で最も低い水準であった。 比較の参照点:デンマークの小学校を卒業した25歳の移民の子孫では、この割合は70.4%に達し、2005年以降で最高水準であった。これは移民本人の割合を明確に上回るが、デンマーク系住民との直接比較データは、本調査で参照した資料の範囲では公的に確認できなかった。 移民の子孫は、欧米系・非欧米系を問わず、移民本人よりも高い割合で中等教育を修了しており、また女性は総じて男性より成績が良い。 Statistikbanken統計表:「18-25-åriges ungdomsuddannelser efter uddannelsesstatus, uddannelse, alder, køn og herkomst」(STATUSU1表)— https://www.statistikbanken.dk/statbank5a/selectvarval/define.asp?MainTable=STATUSU1 補足資料:移民・統合省、統合バロメーター(Integrationsbarometer)— https://integrationsbarometer.dk/tal-og-analyser/uddannelse
8. 住宅
- デンマークは毎年12月1日に、公営住宅地区のうち「パラレル社会(parallelsamfund)」に分類される地区の公式リストを公表している(2021年までは「ゲットーリスト」と呼ばれていた)。これは公営住宅法(Almenloven)により、居住者の50%超が非欧米諸国出身の移民またはその子孫であることに加え、所得・雇用・教育水準・犯罪率などの社会経済的指標を組み合わせて定義される地区である。
- 2025年版リストでは、5地区が「パラレル社会」に分類されている(オーフスのGellerupparkenおよびBispehaven、オーデンセのVollsmose、ホーセンスのSundparken、ホイエ・トーストロップのTåstrupgård)。 経年比較:より広い分類である「脆弱な公営住宅地区(udsatte boligområder)」の総数は2024年の12地区から2025年には7地区に減少した。
- 出典:BL — デンマーク公営住宅連盟(Danmarks Almene Boliger、法定基準とDST統計データに基づく)— https://bl.dk/viden-kartotek/parallelsamfundspakken/ および https://da.wikipedia.org/wiki/S%C3%A6rligt_udsatte_almene_boligomr%C3%A5der(要約資料。内務・住宅省(Indenrigs- og Boligministeriet)/BLが2025年12月1日に公表する公式リストとの照合が必要)。 注:本調査時点で、政府公式リストへの直接リンク(PDFまたは政府ページ)は確実に特定できなかった。最終公開前に住宅省(Indenrigs- og Boligministeriet)のウェブサイトで直接確認する必要がある。
9. 社会的結束
- データが公的に未確認:本調査では、出身・地区別に分解された対人信頼度、治安や社会的結束の感覚に関する、年次を明示した数値データを、公的な一次資料またはロックウール財団の資料から直接確認することができなかった。ロックウール財団研究部門(ROCKWOOL Fondens Forskningsenhed)は移民・統合に関する一般的な総括報告書を公表している(例:「Hvad ved vi om indvandring og integration?」— https://rockwoolfonden.dk/udgivelser/hvad-vi-ved-om-indvandring-og-integration-2/)が、社会的結束に関する単一の数値はこの調査時点で確認できなかった。DSTの生活満足度調査(Tilfredshed og sammenhængskraft)が存在する場合はさらに調査するか、移民・統合省のバロメーターを参照する必要がある。
10. 近年の政治的背景
- 2010年代半ば以降、与野党を超えて制限的な政策への転換が進み、社会民主党政権下でさらに強化された
- 「パラダイムシフト(paradigmeskifte)」法(2019年):難民政策の目標を統合から帰還へ転換
- 注目点:デンマークは社会民主主義路線の国でありながら、明確に制限的な政策を採用している。これは移民問題に関する従来の左右対立の構図を覆すものであり、ヨーロッパの政治的文脈を持たない日本の読者向けに、事実として記録する価値がある。
11. データの限界とバイアス
⚠️ 限界 財務省が用いる「欧米系/非欧米系」という分類は、一部の研究者によって粒度が粗すぎると指摘されている。この点は明記する必要がある。